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Vol.5 太田眞矢

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食にこだわりのある人々が集う表参道周辺には、美味しいレストランが数多くあります。そんな南青山でたくさんの人に選ばれる「トラットリア・フィレンツェ・サンタマリア南青山(以下「サンタマリア」)」。このお店で腕を振るうのは、イタリアはトスカーナ地方のフィレンツェで、4年間修業した太田眞矢料理長です。今回は、食の本場といわれるイタリアで、シェフが学んだこととは何か、お伺いしました。

トラットリア・フィレンツェ・サンタマリア南青山
料理長 太田眞矢(40才)
辻調理師専門学校を卒業後、イタリア料理店に勤務。24才でフィレンツェにて修業を積み帰国。代官山や中目黒などのレストランを経て、31才で際コーポレーションに入社。青山にある「サンタマリア」の料理長になって今年で9年目になる。




 

Q1.辻調理師専門学校ではフランス料理を学んだそうですね?

父が長野でフランス料理屋を営んでいたので自然な流れでフランス料理を選びました。ところが辻時代、アルバイト先のイタリア料理に感化されこの道に入ったのです。もちろんフランス料理も魅力的なのですが、イタリア料理の素材をいじりすぎず、おいしさを活かす味付けは、和食に近いように感じて「肌に合う」という感覚がありました。

Q2.イタリアで修業するお店の目星はついていたのですか?

いいえ。料理を学ぶ情報やツテは全くない状態で渡伊を決めました。アルバイト先のイタリア料理店に就職して5年目、24才のときでした。語学学校だけは決まっていたので通学して顔見知りができるたびに「どんなお店でもいいので料理屋さんを紹介してほしい」と声をかけていました。ところが困ったことに、紹介してもらいようやく採用にこぎつけても、どういう訳かすぐにクビになってしまうという事態が。調理の経験は十分にあったと思うので、こちらの態度の問題でしょうか。言葉がわからないので理由も聞けずじまい。とうとう5店舗目のシェフに「明日から来なくていいよ」と言われた夜には、どん底まで落ち込みました。そして悩みに悩んだ結果、知らない土地だからと甘えてお店を紹介してもらうばかりで、「自ら行動していない」と気づき、自分でお店を探すことにしたのです。

Q3.その状態からどのようにして、フィレンツェの3本指に入る有名レストラン「ブロンジーノ」に就職できたのですか?

せっかくなら「一流のお店で修業がしたい」と、ファッション誌「フィガロ」に掲載されていたレストラン特集のお店を、ランキング1位から順番に面接を受けてみることにしました。レストラン側からしたら、イタリア語をロクに話せない、履歴書も持たない異国のアジア人が、アポイントもなしに突然入ってきて「給料はいらないから料理を学ばせてくれ」といわれて、本当に困ったのではないかと思います。しかし、一流店になればなるほど、私を席に通してくれるだけでなく、話をじっくり聞いてくれました。時にはスパークリングワインを出してくれるところも。一方、ランクが下がるほど、立っているだけでも迷惑だというばかりに門前払いするのです。この経験から美味しい料理を出すだけではなく、素晴らしいサービスがあって初めて一流店になれるのだと確信しました。結果、数社から合格をもらったのですが、一番フィーリングのあった「ブロンジーノ」を選び、4年間修業することができました。

Q4.日本で習得したイタリア料理の技術は、イタリアでも通用しましたか?

日本で5年以上勤めていたお店も本格的なイタリアンレストランだったこともあり、調理方法や味付けなどに関しては大きな違いは感じませんでしたね。強いて言うならば、日本と比べてイタリアの野菜にはエグミが強いということくらいでしょうか。ただ、イタリア人のマインドを学べたことは大きな収穫でした。イタリア人の作るイタリア料理は、良い意味で切り方も盛り付けもおおざっぱ。仕込み過ぎない、飾り付けすぎないからこそ、素材のおいしさが引き出されるのだと思いました。また、イタリアのレストランは、味だけでなくパフォーマンスでお客様を喜ばせるという精神があり、私もしばらくすると寿司のイベントを一任され、魚をさばいて寿司を握り、振る舞っていました。

Q5.日本とイタリアで働く環境の違いは何でしょうか?

日本の職人の世界は特に、技術を手取り足取りまでは教えない傾向にあると思うのですが、イタリアでは無給だったこともあり、一から十まで指導してもらえました。これは本当にありがたかったですね。また料理長が指示を出すだけでなく、みんなと一緒に最後まで働いているところも印象的でした。そして何より違うのが「休み」の多さです。当時、レストランも日曜・祝日は必ずお休みですし、昼休みは3時間ありました。また1年に1カ月間はお店を休業すると決められていたので、フィレンツェ中のレストランは調整して時期をずらしてちゃんと休むのです。

Q6.「サンタマリア」の料理長として、来年の10年目、次の20年目にむけての心意気はありますか?

現在、お客様にも食材を選ぶところから楽しんでもらうため、注文をお伺いするときに、その日仕入れた魚や肉、野菜などを席にお持ちするワゴンサービスをしています。これからもこのようなTPOに応じたパフォーマンスを極めていきたいですね。また、私がイタリア料理に通じるものがあると考える「和食」の要素を取り入れたニューを考案して、「サンタマリア」の長年のファンでいてくださる皆様を、あっと驚かせてみたいものです。




トラットリア・フィレンツェ・サンタマリア

東京都港区南青山4-1-1
03-5772-8085
11:30 – 15:30(L.O.14:30)
18:00 – 23:00(L.O.22:00)
定休:無休
40席
禁煙



 
※掲載内容は2016年6月29日現在の情報となります。