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Vol.11 猪亦剛聡



 

作家の野地秩嘉さんが著した『サービスの達人たち 究極のおもてなし』(新潮文庫)(以下「サービスの達人たち」)に当社のひとりの社員が紹介されている。「もつ焼ウッチャン新宿思い出横丁」を行列のできる人気店にし、渋谷・百軒店にもつ焼ウッチャン2号店を立ち上げた、猪亦剛聡(いのまたたけあき)だ。本の中では、第五章“「客を母と思え」もつ焼き屋の流儀”に猪亦は登場する。猪亦が考える“サービス”について、客層も広さも全く異なる新店でのおもてなしとは何か、猪亦にインタビューした。




和食事業部 「もつ焼ウッチャン渋谷道玄坂」店長
猪亦剛聡(37歳)
関西出身、辻調理師専門学校で料理を学び、卒業後、関西のイタリアンレストランに入社する。9年前に上京し、代官山のカフェで料理人やホールとして働く。その時に知り合った“もつ焼ウッチャン”を立ち上げた内田氏から誘われ、当社に入社。「もつ焼ウッチャン新宿思い出横丁」で働きはじめる。内田氏の独立と同時に「もつ焼ウッチャン新宿思い出横丁」を任され、店長に昇格。行列ができる人気店にした後、半年の充電期間を経て、2017年3月“もつ焼ウッチャン渋谷道玄坂”を立ち上げ、現在、同店の店長を務める。


 

全責任をとるので、自分の「ウッチャン」を作ろうと思った

『サービスの達人たち』に取り上げていただいた経緯ですが、最初にまかない料理の取材があり、その後、週刊新潮の記事で紹介いただき、文庫になりました。自分が思う仕事像の話をして、それを聞いて同意してくれる人がいる。野地さんとの出会いは率直に嬉しかったです。発売後は売上も伸びましたが、思い続けて実行してきた事が形になり、信念をもって続けていれば結果がついてくるという姿をスタッフに見せることもでき、良い作用でした。以前の「ウッチャン」は、内田さんの目指しているウッチャン像がありました。コの字カウンターの中に名物頑固おやじがいて、笑わなく、ものすごく怖いが、期待を裏切らず美味しいものだけを出す。当時は少し強気な接客だったかもしれません。しかし私がウッチャンを引き継いだのは、見た目に貫録もない34歳の時。同じような頑固おやじを演じていてもお客様には伝わりません。このお店に合う自分なりのウッチャンを作っていこうと思いました。

ウッチャンは「人」が商品

串焼きは、毎日入荷する内臓で200本ちょっと仕込んでいます。レバーやチレは50g、その他は35gで統一。オープン前までひたすら串打ち。味の決め手は、内臓の下処理方法、焼き場の炭の扱い方、仕込みの串打ちの仕方です。要するに丁寧な仕事をすること。実は串打ちの時点で味は決まっています。料理人には当たり前のことですが、何も考えないで刺していると、でこぼこになり均等に焼けず、ムラができるためです。しかし最大の隠し味は、お客様への提供の仕方です。例えば少しだけ不格好な串だったとしても、提供の仕方次第でお客様は満足します。だから、「ウッチャン」のウリは“人”。焼き方や打ち方は練習すればいくらでも上手になりますが、丁寧な仕込みや美味しく食べてもらいたいという気持ちは、心がないとできません。決して高価な食材を仕入れているわけでもないので価値には限界があります。焼き加減や味付け、お店の雰囲気の好みも人それぞれ、80%止まりの満足感を120%までに引き上げるのは人の力だと思います。

異色のウッチャンスピンオフ

最初に渋谷道玄坂の店舗で2号店目の話をいただいた時、ウッチャンぽいことはできるが、「ウッチャン」はできないと感じました。コの字のカウンターだけではなく、2階どころか4階まである大箱。ウッチャンを正確に表現できるか分からないところで、あえてやらなくても良いのではと悩みました。現在オープンして5カ月が経ちます。新宿ではやれなかったことが渋谷では挑戦できる。売上も含めて課題は多いのですが、「もつ焼ウッチャン渋谷道玄坂」は無限の可能性があります。ジビエや自家製ソーセージを提供しようと、東京・新橋「レストランアサクラ」の浅倉さん(洋食部門 総料理長)のところへ勉強にも行きました。2階のカウンターを上手く使って“流し”を呼ぶ週末イベントも考えています。新宿と同じウッチャンを目指さなくても、渋谷だけのウッチャンを表現したい。新宿は、海外からもお客様が増え、支えてくれていた常連さんが入店できなくなっています。本当に申し訳ない。しかし渋谷だと広さもありまだゆっくり座って飲めるので、新宿とすみわけてうまく取りこめたらと思います。

ウッチャンには思いやりある「普通」がしっくりはまる

「ウッチャン」のスタッフは私より年上で、知識や経験もあり、より良いサービスをしたいと、はりきってしまいがちです。大変有難いことですが、まずは力を抜いて本人に何よりも接客を楽しんでほしい。例えば、自分の友達が店に来たとしたら、誰でも「お仕事お疲れ様です。疲れた顔してるな?今日はもう終わり?」と声をかけて飲み物を自然に差し出すと思います。さらっと当たり前にコミュニケーションをとるはずです。それはサービスとも接客とも異なります。そんな大切な人と接する時、労わる時の「普通」を体現したい。ウッチャンでは接客のマニュアルは必要ないし作るつもりもありません。もちろん基本的なオペーレーションは私がやってみせる、やらせてみせて指摘するという流れはありますが、大切な人の労わり方は全員異なるから面白い。相手がどう受け取るか自分で考え、本人の感覚で接してほしい。大切な人を喜ばせたい、そして何よりも自分が喜びたい、それがウッチャンの「普通」=サービスです。



もつ焼ウッチャン 渋谷道玄坂

東京都渋谷区道玄坂2-18-14 日美ビル
16:00 – 23:00(L.O.22:30)
25席