people@KIWA

SERIES ALL

Vol.13 森雄一郎



 

15年前、今は“奥渋谷”と呼ばれている場所に1950年代の“古きよきアメリカ”をコンセプトにしたダイナー「デモデクイーン」がオープンした。この店はうす暗い路地の一角にあり、どこか怪しげな雰囲気をただよわせていた。明け方近くまで渋谷の若者がたむろし、現在、テレビや映画で活躍する役者達もよく来ていた。その「デモデクイーン」は、2013年に建物老朽化の為、とりこわしとなり、1年半後、歩いて数10秒の場所にリニューアルオープンする。旧「デモデクイーン」立ち上げからの11年間と、新生「デモデクイーン」を現在まで任されているのが森雄一郎(もりゆういちろう)だ。若者の街として歴史を刻み、今も変貌し続ける渋谷で長年働く森にインタビューした。



森雄一郎

洋食事業部「デモデクイーン」店長兼、料理長
森雄一郎(42歳)
佐賀県出身、幼少期から東京在住。拓殖大学の学生時代、1カ月間アメリカへ旅行し、出会ったハンバーガーと南部料理に刺激を受ける。卒業後、様々な飲食店で働くが、2002年、旧「デモデクイーン」の立ち上げと同時に当社に入社。閉店する2013年まで従事する。いったん家庭の事情で退職するが、2014年「デモデクイーン」の立ち上げを任され復帰。現在、店長兼料理長を務める。
 


 

福生の街が原点。衝撃を受けた店が「デモデヘブン」

幼少期は、泣き虫ってよく言われていました。小、中は、野球に夢中で、高校は帰宅部だったので、お寿司屋でアルバイト。最初に働いた場所は飲食店でしたね。ちなみに、小学校の卒業文集で将来の夢、“コックさん”って書きました。シェフとか料理長ではなく、コックさん。高校生の時はレコード集めが趣味で、よく午後の授業をさぼって西新宿にレコードをあさりに行っていました。レコードは400枚くらい持っていますよ。店舗でも流す音楽や音量は色々と考えています。音楽はTPOで変えるべき。同じ毎日なんてないのに、毎朝同じ時間に同じ曲が流れているのはおかしいと思いませんか?ランチ、カフェ、ディナーと流す音楽は変更しています。
「デモデクイーン」のオープンニング募集を見たのは、福生にある「デモデヘブン」で。高校、大学時代は頻繁に福生で遊んでいました。あの頃の“福生”は、ちょっと流行り始めたアメリカンカジュアルやら古着やら、とにかく魅力的な街で、「デモデヘブン」にもよく行っていました。昔、テラスのウッドデッキ部分に小屋が立っていて、黒人の方がやっているバーがあったんですよ。店内は真っ暗だから、その方の目だけがギョロっと見えている独特の感じのお店。雰囲気ありましたね。衝撃的だった。そんな「デモデヘブン」で募集している求人に興味がないわけがなく。オープニングスタッフとして働きたいと思いました。

食へのこだわりは、母が料理上手だったから

私の家は、父がお酒飲みで、まずはビール、日本酒の熱燗、最後にウィスキーでしめる、母はお酒に合った料理を突き出しから出していく。そんな食卓を小さい頃から見ていたので、お酒とアテに対しての執着心は他の人とは違う感覚だと思います。母は普通の主婦でしたが、親戚からも一目おかれるくらい料理上手。朝食は毎朝、旨い味噌汁が食卓に並んでいました。今では、出汁からとって毎朝365日!味噌汁を作って飲んでいます。イメージと違いますか笑?味噌汁を飲まないと目が覚めないんですよ。最近では本で読んだ大和芋をすりおろしたものを入れて食べています。出汁は母と同じく昆布とかつおぶしから。店舗でもゼロから作れるものはこだわって手作りをしています。ランチドレッシングもその時々で味を変えていますし、他5種類程のドレッシング、ハンバーグソース、ステーキソース、サルサソース、ソース類は全て手作り。いつか、本場のようなドラム缶と薪を使ったスモークピットで、巨大な豚肉のスペアリブの燻製を手作りしたいですね。

お酒の面白さをお客様、スタッフにも楽しんで欲しい

食べたい料理を先に決めるのではなく、まず飲みたいお酒を決めてから料理を選ぶ。お酒に対してのこだわりは父の影響ですね。最近はもっぱら自然派ワイン。白濁したワインを飲んでから興味を持ち、今勉強しています。店舗のアルコールメニューは、最初は種類が少なかったのですが、現在は274種類。お客様に対してもですが、スタッフにもこんなにお酒の種類があることを知ってもらい、飲んで、味わって、楽しく売ってほしい。だから味が分かるように片っ端から飲むように指導しています。ただ、どうしても自分の好きな味にしか辿りつかないので、もったいないしつまらない。スタッフのレベルアップは私の一番のミッションです。
オリンピックが近づいてきて、代々木体育館も近くにあり、外国のお客様が更に増えてきました。新たな試みとして日本酒“サケ”と焼酎のソーダ割りを、黒板に記載しておすすめしています。“サケ”の「獺祭(だっさい)」はメジャーですからね、外国の方に喜ばれてよく売れました。今の時期は佐賀県の「七田(しちだ)」の純米七割五分磨きひやおろし。焼酎は芋と麦を1種類ずつ。今後も動向を見て増やしていきたいと思います。

自分の当たり前をぶれることなくスタッフに当たり前に伝える

調理場スタッフが勉強する場として“まかない”を作ることは大変重要なことです。当番制でルールはなし。“まかない”で使用した食材の値段を把握し、一人前いくらで作りました、と原価計算のしくみをこの機会にわかってほしい。私は“まかない”作り大好きです。和食が多いかな。例えばお出汁の中に色々な食材をいれてぐつぐつ煮る。1日目は塩か醤油にして、味が染みた二日目は味噌味にする。主婦みたいですね(笑)
渋谷で成功するためには、若者目線でものを考えなければならないことはマストですが、奥渋谷が流行り、普段渋谷に来ない人達が集まりはじめ、今の時代の難しさを感じています。旧「デモデダイナー」時代、若者は大人達が飲んでいるのを見て、こんなに刺激的な世界があるんだ、かっこいいなと思い、求められている世界観がそこにはあった。その空間が今も作れるかどうかにかかっている気がします。そのためには料理やお酒はもちろんですが、スタッフ、つまり“人”だと思うんです。当たり前のことを当たり前にこなし、当たり前のようにお客様とコミュニケーションがとれるスタッフを育てたい。「デモデクイーン」の世界感を体現し作り続けられる人を、当たり前に育てることが、私のここでやるべきことだと思っています。




デモデクイーン
東京都渋谷区宇田川町37-35
【日~木】11:30~24:00(L.O.23:00)
【金、土】12:00~27:00(L.O.26:00)
117席 (屋上テラス、ソファ席あり)



 
※掲載内容は2017年10月13日現在の情報となります。