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Vol.14 長谷川 哲男



 

「万豚記」(ワンツーチー)など町場の親しみある食堂や「紅虎餃子房」のようにリーズナブルに本格中華が楽しめる店、「白碗竹筷樓」や「虎萬元」といった高級料理店など、時代のニーズと共に幅広い中華業態を発信してきた際コーポレーション。そんな当社の集大成として2017年4月にオープンさせたのが、西麻布にある“中華割烹「龍眉虎ノ尾」(りゅうびとらのお)”だ。日本全国から集めたえりすぐりの四季の食材で、日本の歳時記を表現した中国料理を作りだす。季節にによって料理人も変えていく。そして2代目料理長に抜擢されたのが、長谷川哲男(ハセガワテツオ)だ。新たな試みの中国料理店を任されることになった長谷川にインタビューした。




中国料理事業部「龍眉虎ノ尾 西麻布」料理長
長谷川 哲男(46歳)
埼玉県出身。実家はラーメン屋。店を継ぐ前に本格的な中国料理を学ぼうと、高校卒業後、「虎の門パストラル」の中国料理店“天壇”で修業する。簡単に習得できる世界ではないと実感し、ラーメン店は継げないと父に伝え、修業に専念。この世界の魅力にとりつかれた長谷川は、その後、「JALシティーホテル長野」四川料理“四川楼”にて料理長を6年半、ふかひれ専門店「筑紫楼 恵比寿店」の料理長を6年半経験し、2013年に当社に入社。「白碗竹筷樓」や「胡同マンダリン」の料理長へ歴任、現在は「龍眉虎ノ尾 西麻布」の料理長を務める。
 


 

家族サービスはもっぱら料理

今、一番楽しいことですか?“仕事”って言ったら面白くないですよね。この「龍眉虎ノ尾」をやらせてもらうことが嘘偽りなく、毎日が新鮮で楽しいです。
中国料理との最初のつながりはというと、実は、実家がラーメン屋です。調理場が遊び場で、物心がついた時には、水を出したり食器を下げたりしていたそうです。当たり前のようにラーメン屋を継ぐつもりでいましたが、その前に本格的な中国料理を勉強してみようと思い、高校卒業後、中国料理店に就職しましたが、すぐにそんな甘い世界ではないと気づきました。修業をしていく中であっという間にこの世界の魅力にとりつかれ、現在に至ります。
10歳の息子も料理に興味が出てきました。妻も働いているので休日の日曜日は私が朝昼晩と料理を作ります。週明け分までカレーや豚汁を作ったり、常備菜を大量に作ってタッパーに詰めたり。息子にも自分が作った料理を食べさせたいですから。家では和食が多いですね。寿司が好きで魚が好き。だから築地に行くのも楽しい。店の食材に関してもほぼ毎日築地に行って選びます。

刺激にあふれた成都の旅

10月に社長と当社の料理人達と四川の“成都”へ料理研修に行ってきました。基本的な四川料理、回鍋肉、麻婆豆腐、担々麺など食べられるだけ食べました。担々麺だけでも14食くらい。帰りの飛行機に乗る直前までひとりで担々麺を食べていました。空港のラーメン屋さんでも街中の汚い屋台でも、高級店の小さい碗で出てくる担々麺も、どこで食べてもすべて旨い!もちろん店舗ごとに甘い、辛い、酸っぱい、痺れると特徴はあるものの、どの店のものも、はずさないんですよ。中国の料理店レベルが、はるかに日本より高いと感じました。
私は基本に忠実に中国料理を作ってきましたが、本場との違いを再確認できる旅でもありました。舌で感じたことなので、料理人でなければわからないかもしれませんが、その違いを日本に帰ってすぐ試したくなりましたね。感じたことが正解かどうか。そんな発見を料理人達で話し合う場も貴重な時間でした。同じ料理を食べて、意見を言い合う、とても面白く刺激的だった。私達料理人は、やってきたことが違うから感じ方が異なるのは当たり前なわけですが、自分と違う視点を聞けたことは大変勉強になりました。

自分の原点であり、目標である店

前職が激務で体を壊した時に、ふと思ったことがありました。自分が若い時に影響を受けた料理店で自分の腕ひとつで働いてみたいと。それが際コーポレーションでした。募集がなかったので直接本社に働きたいと電話をしました。今思うとすごい行動力ですね。
私が20代の頃、「白碗竹筷樓」や「虎萬元」の料理はすべてが新しかった。出てくる料理は、新鮮で刺激的で何から何まで今までの自分の知識や経験、技術を覆すようなものばかり。今までは、上司の紹介で働く店を決めてきましたが、店の中に頼る人がいない環境に身をおいて3年、力を試してから独立しようと入社しました。今はこの「龍眉虎ノ尾」で働けることが楽しくてまったくそんな気持ちもなくなってしまいましたが。しかし、季節ごとに料理長が変わるという当社の新たな試み、その店の二代目料理長という言葉にプレッシャーもありました。ただやっていく中で、料理を誰の手も入らず1から10まで自分で仕込み、意のままの料理を提供する、こんな恵まれたチャンスは滅多にない。単純に自分のやりたいことをやろうと切り替えました。

カウンターでのもてなしは最高の“楽しみ”

この「龍眉虎ノ尾」は私にとっても挑戦です。何十年も厨房の中で料理を作り“接客”はしてこなかった私が、お客様の目の前で料理を作り、話もしなければいけない。最初に困ったことは、お客様に自分の姿をどう見せるかということでした。他のカウンター店を何軒も必死になって偵察に行きました。カウンターでの店主やスタッフの動き方、歩き方、そして所作。どんな会話をしているのか、自分との会話をメモするだけではなく、隣の人の会話もその隣の人の会話も聞き耳を立ててメモしました(笑)。
実際にこのお店に立ってみて、今までと考え方が180度変わりましたね。作る料理も変わったと思います。お客様目線になったというか。豪快に食べた方が良い料理はより演出をしたり、逆にその必要がないものは食べやすく、食べ尽くせるようにしたり。毎日お客様から教わることがとても多いです。だからこそ、「龍眉虎ノ尾」での時間は、料理も空間も会話も非日常にしてあげたい。その演出のすべてに自分が関われるなんて、料理人生の中で今が一番楽しいですよ。
料理人になっていなかったら?犬か猫か(笑)料理人以外考えられない。他の仕事は今まで一度も考えたことがないです。




龍眉虎ノ尾
東京都港区西麻布4-2-10
【ランチ】11:30 – 15:00
【ディナー】18:00 – 23:00
32席 ※カウンター10席、テーブル12席、個室10席



 
※掲載内容は2017年12月15日現在の情報となります。