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Vol.15 岡田 三郎



 

2017年12月24日、朝5時半に集合し山梨県北杜市に向かう。山梨は、南青山にある中国料理「虎萬元」(とらまんげん)の料理長・岡田三郎の故郷だ。富士山が美しく見える待ち合わせ場所で、岡田が昨年よりジビエ肉の取引をしている「峡北猟友会」(きょうほくりょうゆうかい)会長の五味さんが笑顔で迎えてくれた。この日は、14人のハンターのみなさんと“鹿狩り”に来た。畑を荒らす鹿を駆除し、ジビエ肉として再利用に取り組む新聞記事を読んで、いつももの静かで穏やかな岡田が、即座に知り合いでもない五味さんに連絡をしたのが「猟友会」との交流の始まりだ。いつか狩猟の現場に一度立ち合いたい。岡田念願の“鹿狩り”が実現した。




中国料理事業部「虎萬元 南青山」料理長
岡田 三郎(45歳)
山梨県甲斐市出身。学生時代、和食割烹店の調理アルバイトから料理に興味を持ち、高校卒業後は甲府富士屋ホテルの和食部門に就職。その後は東京の日本料理店で修業を重ねる。一時、実家の山梨に戻ることになったが、勤務先近くにある中華料理店にふらりと入り、その時に食べた麻婆豆腐の今まで味わったことのない美味しさに衝撃を覚え、働かせてほしいと直談判する。これが“中華料理との出会い”となる。その店主の紹介で1997年際コーポレーション㈱に入社。2001年「白碗竹筷樓 赤坂」の料理長に就任。一年の休職中に「薬膳調理指導員」を取得。現在は「虎萬元 南青山」の料理長を務める。
 


 

ルーツを辿った本場の“麻婆豆腐”

2017年11月に堀切さん(編集部注:際コーポレーション 中国料理事業部 西日本調理部長)と“四川”に行って来ました。四川料理のルーツをめぐる旅です。地方の田舎料理を中心に食べてきました。四川省の「自貢」(じこう)は内陸なのに井戸を掘ると塩水が出てくるんですよ。井戸水からとれた塩でにがりを抽出して豆腐を作っているのですが、何ともいえない独特なにおいがあって、地元の子供は食べられない。大人になると食べられるようになるそうですが、あの豆腐の独特の味を消すために香辛料が効いた麻婆豆腐が生まれたのですかね。現地に行かないと分からないこともたくさんあり、勉強になりました。
向こうの市場には、日本ではなかなか手にはいらない “ポルチーニ”や“キヌガサダケ”が生で普通に安く並んでいるんですよ。気になった食材は “どくだみ”。日本はお茶にしてよく飲みますが、四川では、生のまま薬味や和え物にして根まで食べます。強烈な苦味ですが料理に使ってみたく、先日、天然の“どくだみ”がたくさん生えている場所を思い出して摘みに行ってきました。四川の方に言わせると日本の天然の“どくだみ”は美味しいらしいです。
本場の“水煮牛肉”も食べてきましたが、虎萬元の“水煮牛肉”とほぼ同じ味でした。虎萬元では“水煮牛肉”に麺をいれたメニューが人気なのですが、四川で出しても流行るような気がしました。ぜひ、四川でチャレンジしてみたいですね。

人生を変えた町場の “麻婆豆腐”

昔から食には興味がありました。高校の進路を決める時、ワイナリーに興味を持ち、工業化学科に進んだくらいです。料理人としては和食の修業から始めました。中華料理に心ひかれたのは、 “麻婆豆腐”との出会いがあったから。それは山梨に帰っていた時期にふらりと入った職場近くにある中華料理店「須弥山房」(しゅみせんぼう)の麻婆豆腐。山椒は山盛り、土鍋に入ってインパクトがあり、中華になじみがなかった私にはこの麻婆豆腐が本当に美味しくて衝撃的でした。その頃の私は病院食を作っており、食は痛みや苦しみを和らげてくれるものだとも気づかされたのですが、楽しさを届けるのも“食”の役目だと思い出すきっかけとなりました。この麻婆豆腐を絶対に習得したいと思い「タダでいいので働かせてほしい」と店主に直談判。好きな時に来ていいと言われ、時間を見つけてはお店に通って手伝いをするようになりました。
短所は?と聞かれると「人見知り」と答えるのですが、これだ!と思い、ピン!ときたことには、、、人見知りを忘れて行動していますね(笑)。麻婆豆腐を食べた瞬間も、これだ!と思ったんです。職場だけではなく家に帰っても、料理のこと、メニューのこと、食材のこと、ずっと考えています。ずっとそんなことを考えているから、これだ!と思うものが目に入ってくるんでしょうね。そのひとつが地元、山梨のジビエでした。

ふるさと山梨ジビエとの出会い

たまたま新聞を読んでいた時、山梨で畑を荒らす鹿を駆除し、命を食材として活かす取り組みについての記事が目に入りました。日頃から山梨の食材を料理に使いたいと思っていたので、その瞬間にこれだとピンときまして、すぐに調べて電話をかけました。最初は「富士河口湖町ジビエ食肉加工施設」を紹介されましたが、肉の受注が既にいっぱいだと断られたので、次に紹介された北杜市の「明野ジビエ肉処理加工施設」に電話をかけました。「昨日やっと保健所の認可が下りたんですよ。取引、問題ありません。お客様第1号です!」昨日?第1号?運命を感じましたね。
それから1ヵ月後の休みの日に、妻と子供たちと明野へ見学に行きました。対応してくれた五味誠さんは、若いながら優秀なハンターとして表彰される腕前。狩猟の仕方、処理の手順についても教わり、作業台や冷蔵庫の中まで見せてもらいました。誠さんの父親である「峡北猟友会」の五味力会長には実はこれまでもお世話になっており、旬の季節になると一緒に山椒採りやきのこ狩りに行く間柄です。去年、五味会長を虎萬元主催の「山梨八ヶ岳の鹿 薬膳ジビエと木の子の会」にご招待しました。ジビエの今後の普及のためにも、猟友会の皆さんが駆除した鹿の命がどのような形になってお客様に喜んでいただいているか見てもらいたかったのです。当日は、五味会長から山梨での鹿被害状況や狩猟の話、流通の現状を話していただきました。お客様も熱心に話を聞き、鹿料理も大好評、私にとって大変意味のある会でした。

“鹿狩り”レポート

  • 8時集合。山梨県北杜市明野町の
    「峡北猟友会」のハンターのみなさんと待ち合わせ
  • 狩猟の作戦会議スタート
    まず山頂ポイントで狩猟犬2匹を放つ
    狩猟犬は臭いで鹿や猪を見つけて追いかける習性がある
  • 犬の首輪にはGPSがついており、犬がどこに向かっているかわかるようになっている
    立ち止まって何回吠えたかということも画面に出る
    吠える回数が多いと、獲物が現れたということ
  • この探査機を持っている者のみ、動いて犬を追いかけ、
    予めポイントで待機しているハンターに無線で状況を教える
    どのポイントで誰が待機するかが重要なため、念入りに打ち合わせ
  • いよいよ“車両通行止め”の策を開け、山の奥に
  • これ以上は車で入れない
    車を止め、ここから狩猟犬2匹と山頂まで歩いていく
  • 見た目は可愛いが、山へ向かう1時間の移動中ずっと吠えていた
    狩猟犬としての本能が半端なく発揮される
  • 山頂まで1時間程かけて登っていく
    他のハンターは作戦会議通りに、それぞれの担当ポイントへ向かい待機
    そこで、無線を聞きながら、獲物が来るのを待つ
  • 携帯電波も入らない山奥のため、
    状況は、無線のやり取りから情報をひろう
    広範囲での狩猟のため聞き取れないことも多い
  • 発砲音が4発聞こえる。無線からの情報で、
    親子の“熊“が現れたことが分かった
    それからまた2発聞こえたが・・・捕獲はできず
  • この日は気温0度、4時間待機したが、
    担当したポイントに獲物は現れなかった
  • 待機ポイントの周辺では、獲物の足跡が多数あり
    近くにいることは確かなのだが・・・
  • 一緒に待機させてもらった駒谷文絵(こまやふみえ)さん
    優しい雰囲気の小学校の先生。少しでも地元の役に立ちたいと
    狩猟の免許を取得したとのこと
  • 暗くなるギリギリまで狩猟してくれた「峡北猟友会」のみなさん
    大変お世話になりました
  • 終了後、五味会長特製の“鹿ロースの燻製”をご馳走になる
    塩加減が絶妙。辛しマヨネーズをつけるのが会長のおすすめ
  • 極寒の中で、捕獲する大変さを経験できました。
    今後は食材に対して敬意を表し、扱いをより大切にしたいです
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地元が元気になるために何ができるだろうか

去年、日本ジビエ振興協会主催の「ジビエ料理コンテスト」に応募しました。ジビエを使うならジビエ料理を広めるために発信していかないと意味がありません。私の考えた「鹿肉のにんにく辛味噌炒め 熱油仕立て」は、実食審査の最終5品に選ばれ、優秀賞をいただきました。
それほどまでに“山梨ジビエ”にこだわる理由ですか?率直に地元愛です。東京に来て、初めて山梨の素晴らしさに気づきました。自分が心を開いていなかったのか、地元では人も閉鎖的だと思っていたんですよね。これほどまでに人も自然や食材も豊かということにも改めて気づかされたんです。実家の葡萄畑が鹿被害を受けて困っていることも聞いていたので、ジビエとして利用する記事を目にした時、鹿を食材として調理することで、私も地元に貢献でき、周りの人も幸せにできる。ジビエ料理を身近なものにしていきたいと新たな目標ができました。
夢ですか?先日中国で訪れた“四川”の田舎村をまるごと山梨に作ることです。リトル四川村@山梨。山梨県と四川省は歴史的・文化的に似ているところが多いため、姉妹友好締結を結んでいるんですよ。お店を一軒やるのではなく、村をそのまま持ってきたら活性化につながりますし、行政と一緒にできたら面白いですよね。




虎萬元 南青山
東京都港区南青山7-8-4
【ランチ】
月~金 11:30 – 15:30(L.O.15:00)
土日祝 12:00 – 15:30(L.O.15:00)
【ディナー】
月~金 18:00 – 22:00(L.O.21:30)
土日祝 17:30 – 21:30(L.O.21:00)
57席 ※カウンター7席 半個室3室



 
※掲載内容は2018年1月18日現在の情報となります。