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  • Vol.4 常川清悟

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    武蔵と相模の境、東京・町田市鶴川にある「武相荘」は、かの実業家・白洲次郎と作家・白洲正子が暮らした茅葺き屋根の趣のある旧白洲邸。2014年の年末に内装をリニューアルし完成したのが、際コーポレーションが運営する「レストラン&カフェ武相荘」です。自然豊かな山の上にあり、料理でお出しする山菜や筍、山椒(木の芽)、クレソン、などは敷地内にて大切に育てられたもの。また、季節替わりのランチはたとえば親子丼なら、白洲家のレシピをアレンジして、このランチのために作家に器を発注するなど、武相荘ならではのサービスでお客様をもてなします。今回は、そんな「レストラン&カフェ武相荘」のシェフ常川さんのお話です。




    レストラン&カフェ武相荘
    常川清悟(35才)
    和食の板前の父、美容師の母の元に生まれ、小さな頃から添加物やジュース、ファストフードとは無縁の食生活を送る。19歳で今はなき青山の有名人気フレンチ店「ポアロー」などで修業を積み、27歳から銀座や湘南のカフェやレストランで料理長を務める。32歳で「際」に入社し、現在は「レストラン&カフェ武相荘」の料理長。


     

    Q1.今はなき青山のフレンチの名店「ポアロー」で修業したそうですが、料理人を目指したのはいつでしょうか?

    19歳の頃です。お店に弟子入りしてからは料理人になるまで、月給は7万円で、時間をねん出するために家にもほとんど帰らず、修業に明け暮れる毎日でした。夜は閉店後、オヤジ(師匠)に出された宿題のレシピを作るために居残り、事務所の椅子を並べて、仮眠をとっていました。新しい仕事を任せてもらうために、朝4時に起きてみんなが出社する8時になるまでに仕込みを全部終わらせるなんてことも。また、少しでも時間が空くと、レシピの配合計算のために苦手だった小学校の算数のドリルを解いたり、ロブションやエスコフィエなど一流料理店の本を読んだり、とにかく必死だったんです。そのかいあって、22歳にしてフレンチの最終関門である「焼き(火入れ)」以外の作業は誰よりも早く担当させてもらえました。

    Q2.なぜそんな過酷な環境であるのに、休まず何年間も頑張れたのでしょうか?

    「一流のシェフになる」なんてかっこいい理由ではなく、「料理人以外の道はなかった」から。実は、オヤジに毎日毎日作った料理を罵倒され殴られるうちに5年目くらいに鬱になってしまい、包丁を握られない時期がありました。それでもオヤジは包丁と私の手をガムテープでぐるぐる巻きにして「これで練習を続けろ」と容赦しません。今の子ならそこまで追い詰められたら辞めてしまうと思うのですが、「料理人になって人生のスタートラインに立つ」ということしか頭になかったので、苦しいながらも続けられました。しばらくして念願の「火入れ」も担当させてもらえることになり、料理人としての人生が少し見えた途端、鬱も改善しました。今となっては弟子を一人前にするためという当時のオヤジの気持ちもわかるし、感謝しかありません。

    Q3.「武相荘」のコース料理を構成する際に、大切にしていることはなんでしょうか?

    初めにお出しする料理のインパクトでお客様の心をつかむことです。そうすることで、その後にお出しする料理への期待と信頼を得られると思っています。ですから味はもちろん見た目でも楽しんもらえるよう、最初のお通しは特に大切にしています。 例えば、ソフトドリンクを頼んだ方へのお通しは「ゆばのパリソワーズ」。2層の色が楽しめるように透明のグラスでお出しします。普通パリソワーズは、すったじゃがいもとコンソメで作るのですが、うちは湯葉とコンソメを使い、下の層の出汁醤油のジュレと合わせることで味の変化を楽しめます。一方の「フォアグラのもなか」は、お酒を召し上がる人に。フォアグラのテリーヌや奈良漬け、菊芋のクリームが入っています。隠し味は鞘からしごいたバニラビーンズ。もなかにこれらを挟むことで「甘じょっぱさ」のハーモニーが生まれ、お酒がますますおいしく進むのです。

    Q4.どんなに忙しくてもお客様とコミュニケーションをとる理由とは?

    お客様には、食べる前に「おいしいそう」、食べて「おいしい」、その日の夜にでも「おいしかった」と3段階で評価してもらって、初めて「本当においしい料理」が完成すると考えています。そのために重要なのは、次の料理を出すタイミング、料理のプレゼンテーション、各人に合った料理のボリューム。ですからお客様と適度にコミュニケーションをとって、様子を伺うことで、料理を完成させていくのです。 武相荘では、朝一番に育てた野菜を収穫し、厳選した素材で手作りしたバターやコンソメなどの調味料を使って、新鮮な魚や肉を調理しています。ぜひ、一人でも多くの人に、豊かな自然に癒されながら、レストラン&カフェ武相荘の料理を堪能してみてほしいですね。




    レストラン武相荘

    東京都町田市能ヶ谷7丁目3番2号
    旧白洲邸 武相荘
    042-708-8633
    11:00 – 20:00L.O.
    定休:月曜
    74席(室内36席/テラス30席/バー8席)
    禁煙



     
    ※掲載内容は2016年5月23日現在の情報となります。

  • Vol.3 坂本和也

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    JR恵比寿駅から歩いて5分、恵比寿駅東口の交差点のほど近くに、長崎県佐世保市「九十九島(くじゅうくしま)」をはじめ、全国の美味しい魚が食べられる「ヒカリ九十九島」があります。「濃い味が苦手」という料理長坂本さんの作る和食は、薄味でありながら素材の旨みが最大限に引き出されており、お酒がついつい進んでしまう美味しさだと評判のお店です。今回は、そんな坂本さんが4年間、雨の日も雪の日も毎朝欠かすことなく通う築地市場へ同行取材してきました。


    ヒカリ九十九島 料理長
    坂本和也(42才)
    高校生の時代にアルバイト先の和食店で働いたのをきっかけに、和食の道に入り24年。「際」の社歴は今年で9年目。銀座の「まめとら」や神楽坂の「魚吉三」などを経て、入社4年目にして恵比寿の人気和食店「ヒカリ九十九島」の料理長を務める。




     

    Q1.なぜ、毎朝必ず築地に行かれるのでしょうか?

    理由は2つあります。まず、築地に通いだしたのは魚のことをもっと知りたいという理由からです。築地に通って4年目ですが、まだまだ知らない魚がここにはあります。毎日見ているだけでも勉強になりますが、やはり仲買人の方たちに魚のことや調理方法を説明してもらうのが一番の学びなので、初めの2年間は、人間関係を築くため会話を増やして人脈を広げることを意識して通っていました。もう一つは、自分でお客様に提供するその日の新鮮な魚や野菜を直接選ぶことです。 購入したものはお店まで業者さんに頼まず、自分の足で運んでいるのですが、それは食材に責任を持ちたいから。魚の管理状況や到着時間などがわからないのが嫌なのですよね。 そしてお店に到着したら、まず買ったものを検品して、ランチや夜のメニューに必要な下処理を行います。料理の仕上がりを左右するので、仕込み前のこの時間を大切にしていますね。

    Q2.築地の場内で魚や野菜の選び方を教えてください。

    魚の選び方としては、よく言う「目が澄んでいる」「身にハリがある」などありますが、現在は冷凍技術が発達しているので、築地にある食材はすべて良いものだと言っても過言ではありません。私は築地に通い続けているうちに、昨日の魚か今日の魚かはわかるようになりましたが、昨日のものでも状態がいいので自宅用なら十分おいしいと思いますよ。 また野菜もしかり。昨今はハウス栽培など農業技術の進歩により、季節に関係なく野菜が手に入るようになりました。それでも、自然の摂理に従った季節ものでないと、固かったり色が悪かったりします。ですから、場内を一周して多く出回っている旬のものを選ぶといいでしょう。 そして何より魚も野菜もお店のプロに聞くことが一番確かな情報です。最近観光客で築地が朝から込み合っていますが、ターレット(運搬車)の邪魔をしない、観光ではなく買い物をする目的を持っているなど最低限のルールを守っていれば、お店の人は質問に応えてくれるので、わからないことは聞くといいと思います。


    Q3.ところで、和食はどちらで学んだのですか?

    高校卒業後、料理の師匠であるおやじについて回り、履歴書に書ききれない数のお店で働いて、和食の基本を学びました。料理を習い始めの頃おやじに「腕が切れないなら、包丁は切れるようにしろ」と言われていたので、母に怒られながらもローンを組んでまで良い包丁を購入していました。それ以来、こつこつと集め続けて現在全部で20本以上はあると思います。刺身や野菜専用の「柳」や、野菜を面取りする「薄刃」、マグロ専用の「たこひき」など、ひとつひとつ用途が異なります。使い分けるのが大変だと思われるかもしれませんが、実は専用の包丁を持っていた方が、料理の効率はとても良いのです。使ったすべての包丁は、お店の営業が終わったら研いで油をさすなど手入れをし、空気に触れないように包丁収納や鞘に入れて保管しているので、10年以上ベストな状態で使い続けています。

    Q4.料理について大切にしていること、こだわりはありますか?

    私にとって器はとても大切な存在です。「ヒカリ」にはたくさんの和食器があるのですが、「この器に何の食材をどう盛り付けるか」と考えることから献立を立てています。 また、料理の正解は、お客様あってのことなので自己満足では終わらないようにしています。「ヒカリ」のお店の規模は28席と広すぎず、オープンキッチンなので、お客様の反応がダイレクトに伝わります。「おいしかったよ」はもちろん、帰った後お皿に料理が残ったら、何が悪かったか聞きたいし、聞けなかった場合、どうして残ってしまったのか、考えて考え抜いて明日はもっと美味しく作れるよう、レシピを作り直します。 そして、こだわりというか、調理人ではなく料理人である私の性なのだと思うのですが、手作りできるものはすべて作らないと気が済まない。たとえば、お店で出すからすみや佃煮、味噌や西京焼きの漬けるタレなどの調味料は自家製です。 今後挑戦してみたいのは、小麦や穀物を使わないグルテンフリーやグレインフリーです。ここ数年インバウンドで海外のお客様が増えていますが、食事制限をしている方にも、和食を美味しく楽しんでもらえたらいいですね。




    ヒカリ 九十九島

    東京都渋谷区恵比寿4-9-5
    マンションニュー恵比寿102
    03-6450-4484
    11:30 – 14:00
    17:30 – 23:30(L.O.22:30)
    定休:日曜
    28席、禁煙



     
    ※掲載内容は2016年4月26日現在の情報となります。

  • Vol.2 田城康隆

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    「富士喜」のトンカツは、脂の融点が低い「茨城県瑞穂のいも豚」を使用。口の中でとろけるジューシーさと、パン粉のサクサクとした食感の組み合わせがおいしいと、短期間で評判の店になりました。大きなトンカツ定食にもかかわらず、女性客もペロリと食べられるそうで、なんと5日間連日食べに来ているという男性のお客様も。今回はそんなトンカツ「富士喜」を立ち上げた田城康隆さんのお話です。


    洋食事業部 営業部長
    田城康隆(42才)
    入社して13年目。タイ料理や韓国料理、焼肉などさまざまな業態の店舗立ち上げに携わる。直近では、池尻大橋についで中目黒に、茨城県産瑞穂のいも豚を使ったトンカツ「富士喜」、新橋にタイ料理「グリーンパッタイ 新橋」をオープン。




     

    Q1.池尻大橋店に続いて中目黒店も人気店となりましたね。

    「富士喜」の中目黒店は、実は売り上げが悪く色んな業態が次々と撤退した場所だったので、正直少し不安はありました。そういう事情からも自分としてはこの店は十分結果が出せていると思っているのですが、ほぼ毎日かかってくる社長からの電話は、叱咤激励のむしろ「叱咤」が多い。それでも、お客様がたくさん来店してくださる分だけ、社内でも何かしらの反応があるので、どちらも自分の原動力になっています。

    Q2.勝因は何だったのでしょう?

    なんといっても「素材にとことんこだわったこと」です。外食に不安を抱く人が安心できるよう、素材の産地や飼料を明らかにしたのが吉とでたのでしょう。もちろん味の仕上がりにもこだわりました。「肉」は、茨城産瑞穂のいも豚を一頭買い。「揚げ油」は、自家製ラード、牛脂、ごま油の3種をブレンドしているので、コクがあるのにあっさりとした仕上がりです。「パン粉」は香りが立つように電気でなくガスで焼いて、見た目のキメが整うよう粗くも細かくもない絶妙な大きさにひきました。席にある「ソース」も店でブレンドしたもので、「塩」も初めは数種類用意。お客様の反応からヒマラヤの岩塩に決定しました。


    Q3.なぜ「茨城産瑞穂のいも豚」を「一頭買い」?

    有名店のトンカツは、SPFという無菌豚を仕入れるところが多いのですが、関東での地産地消の観点と、火を入れてもふっくらとしてみずみずしいことから、うちではこのブランド豚にしました。さつま芋と穀類を飼料にしているので「自然な甘みやうまみ」と、雄よりも脂の融点が低い雌豚を採用しているので、口の中でとろける「まろやかさ」もあります。また、一頭買いの利点は「コストが抑えられる点」と「希少部位が提供できるところ」。うちで余った部位は、際にある他の飲食店で活用できるので、一頭買いしても無駄が出ないところもいいですね。

    Q4.入社前は、どのようなお店で修業をしていたのですか?

    2つの有名洋食店を合わせて15年くらい働いていました。際も13年目です。どこも長いでしょう?自分はいつも「継続は力なり」と思っているので、一度始めたら簡単にはやめません。運もよかったと思います。どの現場にも「この人の下で働きたい」と思えるような人がいて。何事も教えてもらうというよりは、見よう見真似で技術を習得してきました。一方、自分はというと口うるさい先輩になりましたね。後輩には厳しい飲食業界で生き残れるよう根性と技術を身に着けてほしくて、ついつい口酸っぱくなってしまいます。

    Q5.一流の料理人を目指す人にアドバイスするとしたら?

    サラリーマン気質の料理人が年々増えてきたのではないでしょうか。そんな志だと、いつまでも技術は向上しないと思います。そして志と同じくらい大切なのがチームワークです。自分はいつも5人のチームで動いていますが、みんな自分が出来ないことを得意とする人ばかり。料理を研究することは当たり前ですが、「ワインに精通している」「整理整頓が得意」などの特技は、いつか自身のお店を開くときに必ず役立つので、チームに貢献しながらその技術を伸ばすといいと思います。




    富士㐂 中目黒

    東京都目黒区青葉台2-21-13
    青葉台マンション106号
    03-6303-0074
    11:00 – 22:00(L.O.21:00)
    定休:未定
    22席(カウンター8席)、禁煙



     
    ※掲載内容は2016年3月23日現在の情報となります。

  • Vol.1 浅倉浩二

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    記念すべき連載の第一回は、「際」の洋食部門の総料理長であり、2015年10月に新橋の路地裏にシャルキュトリ&京都肉黒毛和牛の専門店「肉TECA酒BACCO ASAKURA」(現;ジビエ・ステーキ ASAKURA)をオープンした浅倉浩二さんのお話です。



    浅倉浩二

    際コーポレーション 執行役員 洋食部門 調理部長
    浅倉浩二(56才)
    際に入社して約3年目にして総料理長となり現在15年目。
    2015年10月に新橋にて「肉TECA酒BACCO ASAKURA」(現;ジビエ・ステーキ ASAKURA)をオープン。
    「スコルピオーネ スタツィオーネ(有楽町」「サルシッチャウノ(広尾)」など、イタリアンやフレンチといった「際」の洋食の店舗ほぼ全店の立ち上げに携わる。

    Q1.どのようなお店ですか?

    シャルキュトリ(ソーセージやパテ、ハムなど食肉の加工品の総称)や京都肉黒毛和牛の食べ比べ、ジビエ(鹿や猪、鴨)を中心としたイタリアンレストランです。

    Q2.シャルキュトリはどちらで学んだのですか?

    独学です。
    料理を始めた頃に、日本のドイツ料理屋で働いていたのですが、ソーセージの工場見学にいってからというもの、シャルキュトリの魅力にすっかりとりつかれまして。
    それからというもの、自宅で作ってみたのですが、ほとんど失敗の連続でしたね。
    それでも試行錯誤し続けた結果、今のレシピは味が安定して成功率100%になりました。
    シャルキュトリの食文化があるイタリアで働いていた時の経験も役立っています。

    Q3.ずばり、このお店を一言でいうと?

    私の料理人人生の「集大成」ですね。
    実は紆余曲折あって、急遽1カ月間という短い期間でお店を引き継ぐことに。
    ただ、長年研究していたシャルキュトリや、今までの色々なお店での経験や知識を全面に生かせば、必ず成功できるという自信が私にはありました。
    おかげさまでオープンしてから着実にファンの方が増えていき、現在では、ほとんど毎日ディナーの予約を頂いています。

    Q.4「際」に来て15年だそうですが、いつも心掛けていることは?

    社長は、経営者であり料理人でもあるので、いつなんどきも自分の得意分野で社長と向き合えるように、普段から料理への研究は欠かせません。
    また、叱咤激励もあって、お店や料理への意見を強い口調で話すこともありますが、そんな時は何クソ根性で悔しいと思う気持ちをバネにすればいい。
    社長は、絶対によい変化や努力を見逃さない人なので、続けているうちに社長は必ず大きなチャンスをくれますよ。

    Q5.一流の料理人を目指す人にアドバイスするとしたら?

    2つあります。
    1つ目は「自分の料理に自信を持つこと」。
    そのためには、私にとってのシャルキュトリのように「誰も真似のできない料理を極める」必要があります。
    2つ目は「やれることはすべて実行すること」です。
    例えば、魚が必要なら朝から築地の場内に買い付けにいくとか「食材にとことんこだわる」、また、当たり前ですが、汚れやすいキッチンを冷蔵庫の中まで「清掃して片づける」、シャルキュトリに合うパンを焼くなど「手作りできるものは全部作る」…。
    他にもいろいろあるでしょう。
    いつでも今できることは何か考えてみるといいと思います。



    ジビエ・ステーキ ASAKURA

    ジビエ・ステーキ ASAKURA

    東京都港区新橋2-8-14
    03-3539-4339
    11:30 – 15:00(L.O.14:00)
    18:00 – 23:00(L.O.22:00)
    定休:日曜日
    67席、全席禁煙



     
    ※掲載内容は2016年3月1日現在の情報となります。