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Vol.3 坂本和也

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JR恵比寿駅から歩いて5分、恵比寿駅東口の交差点のほど近くに、長崎県佐世保市「九十九島(くじゅうくしま)」をはじめ、全国の美味しい魚が食べられる「ヒカリ九十九島」があります。「濃い味が苦手」という料理長坂本さんの作る和食は、薄味でありながら素材の旨みが最大限に引き出されており、お酒がついつい進んでしまう美味しさだと評判のお店です。今回は、そんな坂本さんが4年間、雨の日も雪の日も毎朝欠かすことなく通う築地市場へ同行取材してきました。


ヒカリ九十九島 料理長
坂本和也(42才)
高校生の時代にアルバイト先の和食店で働いたのをきっかけに、和食の道に入り24年。「際」の社歴は今年で9年目。銀座の「まめとら」や神楽坂の「魚吉三」などを経て、入社4年目にして恵比寿の人気和食店「ヒカリ九十九島」の料理長を務める。




 

Q1.なぜ、毎朝必ず築地に行かれるのでしょうか?

理由は2つあります。まず、築地に通いだしたのは魚のことをもっと知りたいという理由からです。築地に通って4年目ですが、まだまだ知らない魚がここにはあります。毎日見ているだけでも勉強になりますが、やはり仲買人の方たちに魚のことや調理方法を説明してもらうのが一番の学びなので、初めの2年間は、人間関係を築くため会話を増やして人脈を広げることを意識して通っていました。もう一つは、自分でお客様に提供するその日の新鮮な魚や野菜を直接選ぶことです。 購入したものはお店まで業者さんに頼まず、自分の足で運んでいるのですが、それは食材に責任を持ちたいから。魚の管理状況や到着時間などがわからないのが嫌なのですよね。 そしてお店に到着したら、まず買ったものを検品して、ランチや夜のメニューに必要な下処理を行います。料理の仕上がりを左右するので、仕込み前のこの時間を大切にしていますね。

Q2.築地の場内で魚や野菜の選び方を教えてください。

魚の選び方としては、よく言う「目が澄んでいる」「身にハリがある」などありますが、現在は冷凍技術が発達しているので、築地にある食材はすべて良いものだと言っても過言ではありません。私は築地に通い続けているうちに、昨日の魚か今日の魚かはわかるようになりましたが、昨日のものでも状態がいいので自宅用なら十分おいしいと思いますよ。 また野菜もしかり。昨今はハウス栽培など農業技術の進歩により、季節に関係なく野菜が手に入るようになりました。それでも、自然の摂理に従った季節ものでないと、固かったり色が悪かったりします。ですから、場内を一周して多く出回っている旬のものを選ぶといいでしょう。 そして何より魚も野菜もお店のプロに聞くことが一番確かな情報です。最近観光客で築地が朝から込み合っていますが、ターレット(運搬車)の邪魔をしない、観光ではなく買い物をする目的を持っているなど最低限のルールを守っていれば、お店の人は質問に応えてくれるので、わからないことは聞くといいと思います。


Q3.ところで、和食はどちらで学んだのですか?

高校卒業後、料理の師匠であるおやじについて回り、履歴書に書ききれない数のお店で働いて、和食の基本を学びました。料理を習い始めの頃おやじに「腕が切れないなら、包丁は切れるようにしろ」と言われていたので、母に怒られながらもローンを組んでまで良い包丁を購入していました。それ以来、こつこつと集め続けて現在全部で20本以上はあると思います。刺身や野菜専用の「柳」や、野菜を面取りする「薄刃」、マグロ専用の「たこひき」など、ひとつひとつ用途が異なります。使い分けるのが大変だと思われるかもしれませんが、実は専用の包丁を持っていた方が、料理の効率はとても良いのです。使ったすべての包丁は、お店の営業が終わったら研いで油をさすなど手入れをし、空気に触れないように包丁収納や鞘に入れて保管しているので、10年以上ベストな状態で使い続けています。

Q4.料理について大切にしていること、こだわりはありますか?

私にとって器はとても大切な存在です。「ヒカリ」にはたくさんの和食器があるのですが、「この器に何の食材をどう盛り付けるか」と考えることから献立を立てています。 また、料理の正解は、お客様あってのことなので自己満足では終わらないようにしています。「ヒカリ」のお店の規模は28席と広すぎず、オープンキッチンなので、お客様の反応がダイレクトに伝わります。「おいしかったよ」はもちろん、帰った後お皿に料理が残ったら、何が悪かったか聞きたいし、聞けなかった場合、どうして残ってしまったのか、考えて考え抜いて明日はもっと美味しく作れるよう、レシピを作り直します。 そして、こだわりというか、調理人ではなく料理人である私の性なのだと思うのですが、手作りできるものはすべて作らないと気が済まない。たとえば、お店で出すからすみや佃煮、味噌や西京焼きの漬けるタレなどの調味料は自家製です。 今後挑戦してみたいのは、小麦や穀物を使わないグルテンフリーやグレインフリーです。ここ数年インバウンドで海外のお客様が増えていますが、食事制限をしている方にも、和食を美味しく楽しんでもらえたらいいですね。




ヒカリ 九十九島

東京都渋谷区恵比寿4-9-5
マンションニュー恵比寿102
03-6450-4484
11:30 – 14:00
17:30 – 23:30(L.O.22:30)
定休:日曜
28席、禁煙



 
※掲載内容は2016年4月26日現在の情報となります。